会話のない食事を豊かな時間に。禅僧をヒントに。
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5月25日に緊急事態宣言が解除されてから2か月がたとうとする今、あらためて新しい生活様式を心に留めておこうと思いました。
今回は、新しい生活様式の中でも「食事スタイル」について掘り下げます。新しい生活様式での食事スタイルを豊かな時間にするにあたって、禅僧の食事作法がヒントになるのではないかというお話です。
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新しい生活様式の食事スタイルの振り返り
厚生労働省のホームページより、新しい生活様式の実践例は以下の4項目から成ります。
- 一人ひとりの基本的感染対策
- 日常生活を営む上での基本的生活様式
- 日常生活の各場面別の生活様式
- 働き方の新しいスタイル
この3番目に挙げられている場面例は、「買い物」「娯楽・スポーツ等」「公共交通機関の利用」「食事」「イベント等への参加」となっています。
その中で「食事」の具体的な生活様式は、以下のように提案されています。
- 持ち帰りや出前、デリバリーも
- 屋外空間で気持ちよく
- 大皿は避けて、料理は個々に
- 対面ではなく横並びに座ろう
- 料理に集中、おしゃべりは控えめに
- お酌、グラスやお猪口の回し飲みは避けて
参考元:新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」の実践例を公表しました|厚生労働省
通常でしたら誰かと共に食事をすると、リラックスした雰囲気で親交を深められる機会になるのですが、新しい生活様式での食事スタイルを実践するとなると、誰かを食事に誘うのがなんだか気が引けます。
仮に、誰かと食事に行ったとしても、少し離れた席でそれぞれが黙々と食べることになりそうです。もしくは、食べ物を口に運ぶときだけマスクを外し、それ以外はマスクをして会話も楽しむ、という形になるでしょうか。
ここは発想をかえて、一人で食事を深く味わうことを掘り下げていこうと思いました。そこで頭に浮かんだことが、禅僧の食事作法です。
禅僧の食事作法
禅僧にとって食べることは修行の一つです。
食事の前に、食事の心構えともいえる「五観の偈(ごかんのげ)」という偈文を唱えます。Wikipediaにその内容の解釈が載ってましたので、抜粋します。
略訳
- この食事がどうしてできたかを考え、食事が調うまでの多くの人々の働きに感謝をいたします。
- 自分の行いが、この食を頂くに価するものであるかどうか反省します。
- 心を正しく保ち、あやまった行いを避けるために、貪など三つの過ちを持たないことを誓います。
- 食とは良薬なのであり、身体をやしない、正しい健康を得るために頂くのです。
- 今この食事を頂くのは、己の道を成し遂げるためです。
出典元:五観の偈 - Wikipedia
目の前の食事をもたらしてくれた多くの人々への感謝や、自分の内面との対話、体を作る栄養をいただくという心持ちで、食事をするということです。
食事をいただく際には、良い姿勢で丁寧に器を持ち、箸をとり、一口分の食事と向き合います。口に運んだ後は、箸を置き、器を置きます。食事中の私語は禁止です。
一口食べるごとに箸を置き、食材と向き合い、自分と向き合い、感謝の気持ちで食事をいただきます。
実際の暮らしへの応用
新しい生活様式では、「料理に集中、おしゃべりは控えめに」とのことでした。禅僧の食事作法は、料理に集中した究極の姿だと思います。
実際には修行僧ではないので、食事内容を質素にすることや、自己反省の場にする必要まではないと思います。ですが、一口一口をもっと丁寧に深く味わうことはできそうです。
一口食べるごとに箸を置いてゆっくり味わってみると、これまでは感じられなかった味や食感など、料理に対する気づきがあるかもしれません。私の場合は、コーヒーの産地による味の違いがよくわからないのですが、ゆっくり味わうことでコーヒーの味も少しわかってくるかもしれません。
おしゃべりを控えるということは、自分の内側から生じる声に耳を澄ませる時間になるのではないでしょうか。
しっかりと食事と向き合って食べることで、自分自身はどのように感じるのか。
内側の感覚を研ぎ澄ませて食事をすることは、おしゃべりすることとはまた違った、食事の楽しみになるのではないかと思います。
また、このようなときにこそ、この食材を育てている農家の方々、物流の方々、卸売り、小売りの方々、調理した方など、多くの皆さんに思いを馳せ、自然の恵みに感謝して、食事をしたいものです。
参考文献及び作者の枡野俊明氏について
禅僧の食事作法については、こちらの本を参考にしました。この本では、作者である枡野俊明氏の禅僧としての視点から、具体的な日常の場面において所作を整える方法が書かれています。
作者の枡野俊明氏は、曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授であり、著名な庭園デザイナーです。禅の庭園を国内外で作っておられます(国内では、カナダ大使館、外務本省中庭、セルリアンタワー東急ホテルなど)。
庭園作品は、枡野俊明氏のホームページ(歩歩是道場−枡野俊明+日本造園設計)にも掲載されています。枯山水などの禅の庭がとても美しく、眺めていると心が落ち着いてきます。
偶然にも同じタイトル名でしたが、当ブログとは関係がありませんのでご了承ください。これだけ様々な庭園を造って活躍されている方でも、庭造りが修行の場だとおっしゃられていることに、私も身が引き締まる思いになりました。
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今回は、新しい生活様式の食事スタイルを実践するにあたり、一人での食事時間をより豊かにするために、禅僧の作法がヒントになるのでは、というお話でした。
一口一口丁寧に、食材と自分の内側に向き合って食事をするということは、会話をしながら食べる食事とはまた違った豊かさがあると思います。
食事を通じてコミュニケーションをとることも、とても貴重な時間です。それは、状況が落ち着いてからのお楽しみにとっておこうと思います。